出産で保険適用となる条件は?自己負担を抑えられる妊婦にうれしい制度も紹介
出産にかかる費用は、一部の例外を除き公的医療保険適用対象外です。そのため、原則全額自己負担となりますが、公的な制度を使えば負担を軽減できます。この記事では、妊娠・出産にあたって利用可能な、自己負担を抑えるための公的な制度について詳しく解説します。
Supervisor監修者
2級FP技能士、AFP(日本FP協会認定)、貸金業務取扱主任者荒井 美亜
立教大学大学院経済学研究科卒業。
「ささいな疑問や悩みを拾い上げ、前に進む原動力に変える」ことを目標に、金融分野を中心にライター活動中。
日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。
出産費用の相場は40~50万円
まず最初に、出産費用の相場はどのくらいなのか解説します。
厚生労働省の調べによれば、令和2(2020)年度の室料差額等を除いた民間・公的医療施設を含めた全施設での平均出産費用は46.7万円とのことでした。
令和2年度の室料差額等を除いた公的病院の平均出産費用は45.2万円、全施設の平均出産費用は46.7万円であった。
以上から、出産費用の大まかな相場は40~50万円と考えてよいでしょう。また、出産費用は地方では安く、都心部では高くなる傾向にあります。
原則として出産は保険適用対象外
日本では、出産は診察や手術が必要な病気やけがに該当しないので、公的医療保険適用対象外という考え方が取られてきました。そのため、出産費用も一部の例外を除き、公的医療保険適用対象外の費用として全額自己負担となっています。
また、公的医療保険の適用外となる以上、出産にかかる費用は医療機関が独自で設定したものになります。出産をする医療施設(病院・助産院など)によって、入院費用はまちまちです。
なお、出産にあたっての入院費用は下記の要素によって変動します。
- 民間・公的医療機関のどちらを利用するか
- 出産の経過に応じて行う医療上の処置
- 普通分娩・無痛分娩のどちら行うか
2026年度をめどに保険適用の導入検討中
2023年9月現在は保険の適用外とされている出産費用ですが、将来的に出産費用が保険適用される可能性も考えられます。厚生労働省は2023年4月5日に、2026年度をめどに出産費用の保険適用の検討を行う考えを示しました。
厚生労働省は5日、政府が表明した出産費用の保険適用について、4月からの「出産育児一時金」の引き上げと2024年4月をめどに始める出産費用の公表制度の効果を見極めた上で検討する考えを示した。検討結果をもとに2026年度をめどに議論を進める。
出産費用で保険適用がなされる条件
前述したとおり、出産費用は一部の例外を除き公的保険適用対象外です。ここでは、どのような条件が満たされれば保険適用がなされるのかについて解説します。
正常分娩の場合は保険適用外
正常分娩は診察や手術が必要な病気やけがではないため、保険適用対象外となります。普通分娩の場合はもちろん、無痛分娩を行った場合も同様です。
異常分娩の場合は保険適用される
一方、異常分娩の場合は保険適用の対象となります。診察や手術が必要な病気やけがであると解釈されるためです。
出産に際して行う手術・投薬・注射・麻酔・検査などの医療的処置にかかる費用や、入院料についても保険適用となります。そのため、入院費用の大半がカバーできると考えてよいでしょう。
ただし、入院費用に含まれる以下の費用については保険適用外となるため、自己負担しなければなりません。
- 個室を利用した際の差額ベッド代
- 食事代
- 新生児管理保育料
異常分娩の代表例は帝王切開
異常分娩とは、通常の自然分娩では出産できず、医療行為の介入を伴う分娩のことです。代表例は帝王切開ですが、他にも吸引分娩や鉗子(かんし)分娩などの器械分娩、早産分娩、骨盤位分娩などが含まれます。
保険適用外の出産費用を抑えるために活用したい制度
出産直後は働けない期間が続く以上、できるだけ出産費用の出費は抑えたいものです。正常分娩であれば公的保険適用外となるものの、さまざまな公的制度を使えばある程度カバーできます。
出産費用のほとんどは出産育児一時金でカバーできる
保険適用外の出産費用のほとんどは、出産育児一時金でカバーすることが可能です。出産育児一時金とは、公的医療保険の被保険者や被扶養者が出産した場合に受け取れる一時金を指します。なお、具体的に受け取れる金額はどの医療機関で出産したかによっても異なります。
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週以降に出産した場合 | 新生児1名につき50万円 |
産科医療補償制度に未加入の医療機関等で出産した場合 | 新生児1名につき48.8万円 |
産科医療補償制度に加入の医療機関等で妊娠週数22週未満で出産した場合 | 同上 |
多胎児(双子、三つ子など)を出産した場合は、新生児の人数に応じて給付される仕組みです。また、出産育児一時金は普通・無痛分娩の場合だけでなく、異常分娩の場合でも受給できます。
妊婦健康診査費用は自治体からの助成が受けられる
出産時だけでなく、出産するまでの期間も母体と胎児の健康管理のためには妊婦健康診査(妊婦健診)が欠かせません。妊婦健診の費用についても、自治体から助成が受けられます。
母子健康手帳を受け取る際に一緒に受診票を受け取り、妊婦健診の際に医療機関に提出することで助成が受けられる仕組みです。
助成額は自治体によっても異なるので、予め確認しておきましょう。なお、栃木県宇都宮市の助成額(上限額)は以下のとおりです。
第1回目 | 20,000円 |
第8回目 | 11,000円 |
第11回目 | 9,000円 |
その他の回 | 5,000円 |
※公費負担上限額を超えた分は自己負担
※多胎児の場合は、枚数の上限なく5,000円の受診票が交付される
また、里帰り出産などで住民票がある都道府県以外の医療機関を利用した場合は、償還払いとなります。つまり、一度全額自己負担で払い、後で助成金の部分を払い戻してもらう流れです。
医療機関で受け取った明細書や母子健康手帳、受診票や預金通帳、印鑑などが必要になるので、事前に用意しておきましょう。
通院費用は医療費控除が利用できる
妊娠・出産に関して支払った保険適用外の医療費も、条件を満たせば医療費控除の対象となります。主要な費用について、医療費控除ができる条件をまとめました。
健診・検査の費用 | 医療費控除できるので、明細書を保管しておくこと。 |
入院中の食事代 | 入院費の一部として医療費控除できるが、フードデリバリーや外食をした部分については控除の対象にならない。 |
通院費用 | 医療費控除できるが、領収書がないためICカードの利用履歴やスケジュール帳などの記録を取り、明確に説明できるようにしておくこと。 |
出産入院時に使ったタクシー代 | 医療費控除できるので領収書をもらっておくこと。 |
一方、以下の費用は医療費控除の対象とはならないので、明細書があったとしても分けて保管しましょう。
- 里帰り出産をする際の実家への交通費
- 入院にあたって購入したパジャマや洗面道具などの身の回り品
異常分娩であれば高額療養費制度が利用できることも
高額療養費制度とは、医療機関の窓口で支払った医療費が一定額(自己負担限度額)を超えた場合、超えた部分については負担を軽減できる制度です。家計における医療費の負担が重くならないように設けられています。
なお、上限額は、被保険者の年収に応じて定められる仕組みです。
適用区分 | 年収 | 1ヵ月あたりの上限額(世帯ごと) |
ア | 約1,160万円~ | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
イ | 約770万円~約1,160万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
ウ | 約370万円~約770万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
エ | 約370万円 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
正常分娩でかかった医療費は公的医療保険適用対象外であるため、高額療養費制度は利用できません。しかし、異常分娩であれば病気やけがとして扱われ、公的医療保険適用対象となるため、高額療養費制度の対象となります。
また、妊婦健診で切迫早産や妊娠悪阻などの異常が発見され、医師が入院が必要と判断した場合の入院費用も対象です。ただし注意したいのは、高額療養費制度を使ったとしても、一度医療機関の窓口で立て替え払いをしなくてはいけないことです。
のちに超えた分の金額が払い戻されますが、一時的な負担は大きくなってしまいます。多胎児の出産により帝王切開を行う予定があるなど、医療費が高額になることが事前にわかっている場合は「限度額適用認定証」を事前に入手しておきましょう。
限度額適用認定証を妊婦健診や出産の際に医療機関の窓口で提示すれば、超えた分については支払う必要がありません。国民健康保険の場合はお住まいがある市区町村、健康保険組合に加入している場合は勤務先の担当部署に問い合わせましょう。
会社員・公務員は出産手当金や傷病手当金を使える
会社員や公務員など、勤務先の健康保険組合や協会けんぽ、共済組合の被保険者の場合、出産手当金や傷病手当金を使うことができます。
出産手当金とは、出産のために仕事を休み、勤務先から給与の支払いが受けられなかった場合に受け取れる給付のことです。支給金額・期間は以下のとおりです。
支給金額 | 支給開始日以前の継続した12ヵ月間の隔月の標準報酬額を平均した額÷30日×2/3 |
期間 | 出産日以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で実際に会社を休んだ期間 |
一方、傷病手当金とは、病気やけがのために仕事を休み、その間勤務先から給与の支払いを受けられなかった場合に受け取れる給付金を指します。妊娠悪阻や切迫流産など、自宅での安静や入院を指示された場合、条件によっては受け取れることがあります。
- 業務外の事由による病気・けがの療養のための休業
- 仕事に就くことができない
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けない
- 休業した期間について給与の支払いがない
支給金額・期間は以下のとおりです。
支給金額 | 支給開始日以前の継続した12ヵ月間の隔月の標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3 ※支給開始日以前の加入期間が12ヵ月に満たない場合は、次のいずれか低い額を使う。 ①支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額の平均 ②標準報酬月額の平均値 |
支給期間 | 支給開始日から通算して1年6ヵ月 |
出産の次にやってくるのが、産休の問題です。産休中の給与が支給されない場合の給付金・手当について解説している記事を参考にしてください。
まとめ
出産費用は原則として、公的医療保険適用外となります。また、民間・公的のどちらの医療機関を使うか、実際にどんな処置をするかによっても費用が全く異なるのも事実です。
ある程度まとまった費用を出さなくてはいけませんが、公的制度を活用することで補える部分も大きくなっています。将来子供が欲しいとお考えの方は、利用できそうな制度を早いうちからチェックしておきましょう。
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