初任給と手取りは平均いくら?学歴や業種による違いや収入UPのステップについて解説
これから社会人になる多くの人は、「自分の初任給はいくらだろう?」と楽しみにしているかもしれません。しかし、初任給は額面通りに受け取れるわけではありません。今回は、学歴や業種による初任給の平均額と、額面金額と手取り額にギャップが生じる理由、収入アップの方法などを解説します。
初任給と手取りは平均いくら?
最初に、平均的な初任給と手取り額について解説します。
初任給に75~85%をかけた額が手取りの目安
初任給とは、社会人として会社に入社し、初めて受け取る給与(給料)のことです。そして、給与とは会社から従業員に対して支払われる労働の対価を指します。所得税法における給与の定義は以下の通りです。
所得税法第二十八条 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。
引用元 | 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)
つまり、給与とは基本給だけでなく、残業代やインセンティブ、賞与などの一時金をはじめ、通勤手当、創業記念品、食事代の補助、家賃補助や社宅などの現物給与も含まれます。
一方、手取りとは会社から受け取る給与の額面から税金や社会保険料を差し引いたものです。差し引かれる金額は個々人によって異なるため一概にはいえませんが、初任給においては、一般的に額面の75~85%が手取りの目安と考えておくとよいでしょう。
初任給から差し引かれるお金
給与から天引き・控除される項目はさまざまです。ただし、すべてが初任給のタイミングから差し引かれるわけではありません。そこで、毎月の給与から差し引かれる項目を、いつの給与から差し引かれるのかも含めて整理しました。
差し引かれるタイミング | 項目 | 概要 |
初任給から | 雇用保険料 | 万が一失業した際に給付を受けるための保険料。給与の0.6%が該当する |
初任給から | 所得税源泉徴収 | 個人の所得に対して発生する税金で、給与から社会保険料などを差し引いた額に対して、一定の割合を掛けて算出する。国税であるため、国に納める |
2ヵ月目以降の給与から | 健康保険料 | 病気やけがをしたとき、治療費の自己負担額を軽減するための保険料。具体的な保険料は加入する健康保険組合によって異なる |
2ヵ月目以降の給与から | 厚生年金保険料 | 将来的に年金を受け取るために支払う保険料。具体的な保険料は加入する組合によって異なる |
就職2年目以降 | 住民税 | 個人の所得に対して発生する税金。給与から社会保険料などを差し引いた額に対して、一定の割合を掛けて算出する。地方税であるため、住んでいる地方自治体に納める |
上記で挙げた項目以外にも、企業によっては退職金の積み立てや労働組合費が天引きされることがあるので、都度確認しましょう。
学歴による初任給の違い
最終学歴によっても、初任給の平均額は異なります。ここでは、高校、大学、専門学校・短大・高専、大学院(修士)の4パターンに分けて初任給の違いを解説します。
なお、以下の背景から国は初任給に関する統計を取っていません。
本調査における行政手続コストの削減及び調査の効率化の方策として、本調査の結果精度の維持及び政府統計全体としての統計ニーズへの対応という観点から検討した結果、他の統計で同様の項目を調査しており、重複が生じていること、本調査でも個人票で年齢、勤続年数等から新規学卒者と考えられる者について集計をすることにより、一定の代替が可能であることから、新規学卒者の初任給に係る項目の廃止が適当と考えられたところ。
そのため、ここでは高卒の場合は「~19歳」、高専・短大・専門学校・大学・大学院卒の場合は「20~24歳」の階層における数値を初任給(額面)として扱ったうえで、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査(第3表 学歴、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率)」の数値を引用します。
令和4年賃金構造基本統計調査(第3表 学歴、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率)高卒の場合は約18万円
高卒の場合の初任給は、平均18万4,600円でした。約18万円と考えた場合、手取り額の目安約13万5,000円~15万3,000円といえます。業界や職種にもよりますが、高卒の場合の初任給は20万円に満たない場合が多いようです。
大卒の場合は約23万円
四年制大学卒業の場合の初任給は、平均23万3,600円でした。約23万円と考えた場合、手取り額の目安は約17万2,500円~19万5,500円となります。
専門・短大・高専卒の場合は約22万円
専門学校卒の場合、初任給の平均額は22万300円でした。また、短大・高専卒の場合は21万5,600円です。約22万円と考えると、手取り額の目安は約16万5,000円~18万7,000円となります。大卒の平均の初任給よりは少ないものの、計画的に使えば一人暮らしでも生活に余裕が生まれるでしょう。
大学院(修士)卒の場合は約26万円
大学院(修士)卒の場合、初任給の平均額は25万7,100円でした。約26万円と考えると、手取り額の目安約19万5,000円~22万1,000円になります。他の最終学歴のパターンと比べると、比較的多く初任給を貰える傾向にあります。
業種による初任給の違い
働く業界によっても、初任給の平均額は異なります。参考として、初任給が高い業界と低い業界を解説します。
なお、現在は国が初任給に関する統計を取っていません。
そのため、「20~24歳」の階層における数値を初任給(額面)として扱ったうえで、厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 第5表 産業、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率」の数値を引用します。
令和4年賃金構造基本統計調査 第5表 産業、性、年齢階級別賃金及び対前年増減率高卒の場合の初任給が高い・低い業界
初任給が特に高い業界は以下の3つです。
- 不動産業、物品賃貸業:23万3,600円
- 学術研究、専門・技術サービス業:23万3,100円
- 情報通信業:23万1,600円
一方、低い業界は以下の3つです。
- 複合サービス事業:19万7,600万円
- 宿泊業、飲食サービス業:20万700円
- 製造業:20万3,400円
最も高い不動産業、物品賃貸業と、最も低い複合サービス事業を比較した場合、4万円近い差になっています。
業界によって差がある理由は?
業界によって給与にだいぶ差がありますが、なぜこのような差がつくのかを、上記の数値をもとに考えてみましょう。
不動産業や物品賃貸業は、高額なものを扱う性質上、取引1件あたりの売上・利益が大きいことが平均給与の高さに関係しています。学術研究、専門・技術サービス業には、専門的な知識や経験が求められる仕事が多いため、給与もそれに応じて高くなっているのが大きな特徴です。
また、情報通信業は需要が多く人手不足になりがちです。そのため、給与を高く設定し、人材を確保しようとする企業が多いことも平均給与の高さに関係しています。
一方で、複合サービス事業、宿泊業や飲食サービス業、製造業には平均給与が低くとどまる共通した背景があります。「商品およびサービスの販売数が多く、1件あたりの取引額が小さい」ことです。利益率も低いため、従業員への給料を上げるのが難しいという結果につながっています。
地域による初任給の平均額の違い
地域によっても、初任給の平均額は異なります。こちらについては、厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況」の数値をもとに解説します。
平均額が特に高いのは関東圏や愛知、大阪
初任給の平均額が特に高いのは、東京・千葉・埼玉・神奈川の首都圏や愛知、大阪などの大都市圏でした。大学卒の初任給(額面)の平均値は以下の通りです。
埼玉県 | 21万400円 |
千葉県 | 21万1,700円 |
東京都 | 22万500円 |
神奈川県 | 21万800円 |
愛知県 | 21万100円 |
大阪府 | 21万100円 |
特に東京都には規模が大きな大手企業・有名企業が集中していることから、初任給も他の地域と比べて高くなりやすいといえます。
栃木の平均額は月20.6万円
ちなみに栃木県では、初任給の平均額は大卒が20万6,500円、高卒が16万4,200円となっています。先に触れた首都圏や愛知(名古屋)、大阪などの大都市と比べると低い水準です。
考えられる背景のひとつに、栃木県は大都市に比べ、人口密度が低いことが指摘できます。人口密度が高いほど、1人あたりの平均所得も高いという関係があるためです。
独立行政法人経済産業研究所「なぜ大都市では賃金が高いのか」2022年のデータですが、栃木県の人口密度は303人/㎢だったのに対し、東京都の人口密度は6,287人/km²と大きな差があります。
帝国書院「統計でみる都道府県のすがた」他にも規模が大きな本社や事務所が集積していることなどさまざまな要因によって、地方より都市圏のほうが初任給を含めた給与が高くなっているという状況に関係していると考えられます。
収入の手取りUPを目指すためにできること6つ
ここまで紹介してきた初任給や給与、手取りの金額はあくまで平均値です。また、キャリアを進めるにつれて給与を上げていくことができます。社会人としてより多くの収入を得たいと考える方は、以下の6つのアクションを起こしてみましょう。
①就職先は平均の初任給が高い業界から選ぶ
収入の高さを重視するなら、初任給の平均額が高い業界の企業を就職先に選ぶのも一つの方法です。ただし、初任給が高いかどうかは企業の規模によっても異なります。
いわゆる上場企業やそれに準ずる企業であれば初任給も高くなる傾向にありますが、倍率が高く、採用基準も厳しい可能性が高いです。また、その企業で本当にやりたい仕事ができるのかどうかはきちんと考える必要があります。
給与の高さと自分の興味・関心とのバランスを考えたうえで就職先を選ぶことが大切です。
②都市部での就職を目指す
初任給を含めた給与の平均額は、地方よりも都市部のほうが高くなるため、都市部での就職を目指すのも一つの方法です。
ただし、都市部だと家賃や生活費も高くなります。求人が十分にあり、自分が納得できる条件で就職ができそうなら、あえて地方で勤務したほうが生活の満足度を高くできるでしょう。
③社内で昇進・昇給を目指す
社内で昇進・昇給を目指すのも、給与をアップさせるうえでは重要です。会社の人事制度を理解し、何をすれば昇進・昇給できるのかを考えてみましょう。
会社によって差があるため一概にはいえませんが、昇進・昇給の審査にあたって加点要素になる条件の例を紹介します。
- 周りのメンバーを励まし、モチベーションを引き出している
- プランやアイデアを実行に移す
- 勤務先の明るいムード作りに役立っている
- 他のメンバーと信頼関係を築けている
- 他のメンバーの業務やプロジェクトを手伝っている
- 環境や状況の変化に柔軟に対応できている
ただし、中小企業の場合明確な人事制度が存在せず、昇給・昇進の判断は上司の裁量によることもあります。そのため、そもそも就職する会社にきちんとした評価制度が存在しているかどうかは把握しておくとよいでしょう。
④手当が出る資格を取得する
業務に関連する資格を取得すると、資格手当が支給されることがあります。合格時に一時金(合格報奨金)が受け取れるケースもあれば、毎月の給与に上乗せされることもあります。自身のスキルアップにも役立つため、積極的にチャレンジしてみましょう。
会社や業務によっても扱いは異なりますが、資格手当の対象となる資格の一例を紹介します。
- 基本情報技術者
- 応用情報技術者
- 宅地建物取引士
- 中小企業診断士
- 社会保険労務士
- 社会保険労務士
- 衛生管理者
- 日商簿記検定
- TOEIC(Listening & Reading Test)
- 秘書検定
⑤平均給与の高い会社・業界に転職する
就職した会社で昇進・昇給のチャンスが見込めず、手取りが上がらないなら、平均給与の高い会社や業界に転職することも選択肢に入れましょう。
ただし、給与が高い分、相応の成果を出すことが求められます。思うように結果を出せずに人事査定が芳しくなかった場合は、給与も下がり希望する手取りを貰えないかもしれません。
また、会社や業界にもそれぞれカラーがあるため「自分はやっていけそうか」を慎重に見極める必要があります。特に未経験の状態から違う業界に転職する場合は、家族や友人・知人、転職エージェントなどのプロにも話を聞きながら慎重に進めましょう。
⑥起業・独立する
収入を増やすという意味では、起業・独立するのも一つの選択肢です。ただし、すぐに成果が出る人は極めてまれで、しばらくは無収入状態で過ごすことになることも珍しくありません。状況次第では、事業を畳んで再就職を迫られる状況もあり得ます。
とはいえ、成功すれば会社に勤めるより格段に高い収入を得られる可能性があります。「自分はこういう仕事がしたい」というビジョンが明確で、忍耐力にも自信があるなら検討してみる価値はあるでしょう。
まとめ
初任給の手取りは、一般的に75~85%程度と考えましょう。会社で働き始めた頃はあまり手取りが多くなかったとしても、その後の努力次第で増やせるチャンスはあります。同じ会社で頭打ちになりそうなら、転職や独立起業を目指すのも一つの選択肢です。
ただし、「自分にとってやりがいが感じられ、自己研鑽につなげられる仕事か」という観点も収入と同じくらい重要になります。自分が納得していない仕事をし続けるのは、多くの人にとって苦痛になるためです。収入を増やしたいと考えるなら、まずは「自分はどうしたいのか」を深く考えてみましょう。
初任給をもらった際、何に使えばよいのか迷う人もいるでしょう。以下の記事では初任給の使い道について紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
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