退職金にかかる税金とは?所得税と住民税の計算方法や確定申告の有無などを解説
会社を退職する際に受け取れる退職金には、一般的な給与や賞与と同様、税金がかかります。しかし、その税金がどのように計算されるのかは知らない人が多いかもしれません。この記事では、退職金にかかる税金の種類や計算方法について、数式を交えて詳しく解説します。
Supervisor監修者
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2級FP技能士、AFP(日本FP協会認定)、貸金業務取扱主任者荒井 美亜
立教大学大学院経済学研究科卒業。
「ささいな疑問や悩みを拾い上げ、前に進む原動力に変える」ことを目標に、金融分野を中心にライター活動中。
日本FP協会の消費者向けイベントにも講師として登壇経験あり。
退職金にかかる税金とは
まず、退職金を受け取った場合、どのような税金がかかるかを理解しましょう。
所得税
退職金にかかる代表的な税金が所得税です。所得税は国に納める税金(国税)のひとつです。1月1日から12月31日までの所得から控除を引き、そのあとに決められた税率をかけて税額を求めます。
所得税の計算方法には「総合課税」と「分離課税」の2種類があります。退職金は「退職所得」として分離課税で計算します。
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総合課税 |
給与、事業所得など複数の所得を合算した合計額に対し税率をかけて税額を計算する |
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分離課税 |
他の所得と合算せず、その所得のみに独自の計算式や税率を用いて税額を計算する |
なお、2037年までは所得税に上乗せして、復興特別所得税を納付しなくてはいけません。復興特別所得税は、2011年3月に発生した東日本大震災の復興に充てる財源を確保するための税金で、「所得税額×2.1%」が税率となっています。
住民税
住民税とは、1月1日現在に住民票がある都道府県と市区町村に対して納める税金のことで、地方税の一種に位置づけられています。厳密には、住んでいる市区町村に納める「市区町村民税」と、道府県に納める「道府県民税」の合計額です。
なお、「市区町村民税」は、東京都23区では「特別区民税」と呼ばれます。また、「道府県民税」は東京都では「都民税」と呼ばれますが、基本的に同じものと考えて構いません。
住民税は「均等割」と「所得割」の2つから構成されます。
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均等割 |
前年の所得金額に関わらず、納税義務があれば同じ金額を納める |
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所得割 |
前年の所得金額に応じて税額を計算する。なお、税率は一律10% |
退職金にかかる住民税も、所得税と同じく分離課税で計算されます。つまり、他の所得と合算することなく税額が計算される仕組みです。
さらに、退職金を受け取るときは勤務先が税額を計算して源泉徴収し、退職年の1月1日時点で住民票があった市区町村に納めます。そのため、自分で手続きする必要はほとんどありません。
退職金における税金の優遇措置
退職金を受け取る際は、退職所得控除を利用できます。所得税を計算する時に、以下の式で求めた金額を控除できるため、大きな節税効果があります。
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勤続年数(Aとする) |
退職所得控除額 |
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20年以下 |
40万円×A(80万円未満の場合は80万円とする) |
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20年超 |
800万円+70万円×(A-20年) |
勤続年数が長いほど控除できる金額も大きくなるため、退職金を受け取るときは忘れずに利用しましょう。
退職金の税金を計算する方法
ここからは、退職金にどれだけ税金がかかるかを計算する方法を紹介します。ただし、勤続年数が5年以内の場合は特別な計算方法になるので注意が必要です。
所得税の場合
退職金にかかる所得税(復興特別所得税を含む)を計算するには、まず「課税退職所得金額」を求める必要があります。これは、受け取った退職金のうち課税の対象になる部分で、次の式で計算します。
- 課税退職所得金額=(退職金の収入金額(税引前の総額)-退職所得控除額)×1/2
そして、課税退職所得金額に所得税率をかけ、控除額を差し引けば所得税額を求めることが可能です。
- 退職金の所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
なお、所得税率は以下のように、所得が増えるほど税率も上がる累進課税制度となっております。
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課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
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1,000円から194万9,000円まで |
5% |
0円 |
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195万円から329万9,000円まで |
10% |
9万7,500円 |
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330万円から694万9,000円まで |
20% |
42万7,500円 |
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695万円から899万9,000円まで |
23% |
63万6,000円 |
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900万円から1,799万9,000円まで |
33% |
153万円6,000円 |
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1,800万円から3,999万9,000円まで |
40% |
279万6,000円 |
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4,000万円以上 |
45% |
479万6,000円 |
なお、復興特別所得税は、退職金の所得税額に2.1%をかけて求めます。
5年以内で退職した場合の税金
何らかの理由で5年以内に退職した場合、課税退職所得金額の計算方法が異なるため注意が必要です。まず、一般の従業員といった役員等以外の人が退職した場合は、以下のように求めます。
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「退職金の収入金額-退職所得控除額」で算出した金額(A) |
計算式 |
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300万円以下 |
A×1/2 |
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300万円超 |
150万円+(退職金の収入金額-(300万円+退職所得控除額)) |
一方、役員等の立場にあった人は、「退職金の収入金額-退職所得控除額」で求めた金額をそのまま課税退職所得金額として扱います。
住民税の場合
住民税の計算式は以下のとおりですが、計算式内の「課税退職所得金額」は所得税の計算で使ったものと同じ数値を使います。
- 住民税=課税退職所得金額×住民税率10%
なお、住民税率は全国均一で10%ですが、政令指定都市かそうでないかで内訳が変わります。
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道府県民税 |
市民税 |
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政令指定都市 |
2% |
8% |
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政令指定都市以外 |
4% |
6% |
退職金の受取方法で税金も変わる
勤務先によっては、退職金の受取方を一時金、年金のいずれかから選べることがあります。基本的に生活に支障がなければどちらでも問題ありませんが、税制上の扱いは変わる点に注意が必要です。
ここでは、それぞれの方法について、メリットやデメリットも交えつつ解説します。
退職金を一時金として受け取る場合の税金
まず、退職金を一時金としてまとめて受け取った場合、退職所得として扱われるため、分離課税により税額が計算されます。
例えば、勤続35年の人が退職金3,000万円を受け取った場合、退職所得控除額は1,850万円です。課税退職所得金額は575万円(=(3,000万円-1,850万円)×1/2)で、所得税(復興特別所得税含む)と住民税の金額は以下のようになります。
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所得税の金額(復興特別所得税含む) |
73万7,672円 |
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住民税(市民税)の金額 |
34万5,000円 |
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住民税(県民税)の金額 |
23万円 |
退職金を一時金で受け取れば、手元に多額の現金が入ってくることが大きなメリットです。住宅ローンの残りがある場合は、その現金を使って一括返済ができます。ただし、浪費してしまうおそれもあるため、しっかり管理する必要があります。
退職金を年金として受け取る場合の税金
一方、退職金を年金として受け取る場合は「公的年金等に係る雑所得」となり、退職所得控除を利用できません。この場合、国民年金や厚生年金など、公的年金等収入金額の合計額から公的年金等控除額を差し引いて雑所得を求めることになります。
なお、企業年金等のうち、年金形式で受け取る場合は公的年金等控除の対象となりますが、確定拠出年金(DC)や一時金として受け取る場合は対象外となるケースがあります。
公的年金等控除額(年金以外の所得が年間1,000万円以下の場合)は、次の表に当てはめて計算してください。
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年金収入 |
公的年金等控除額 |
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60万円以下 |
0円 |
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60万1円から129万9,999円まで |
60万円 |
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130万円から409万9,999円まで |
年金収入×25% +27万5,000円 |
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410万円から769万9,999円まで |
年金収入×15%+68万5,000円 |
|
770万円から999万9,999円まで |
年金収入×5%+145万5,000円 |
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1,000万円以上 |
195万5,000円 |
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年金収入 |
公的年金等控除額 |
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110万円以下 |
0円 |
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110万1円から329万9,999円まで |
110万円 |
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330万円から409万9,999円まで |
年金収入×25%+27万5,000円 |
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410万円から769万9,999円まで |
年金収入×15%+68万5,000円 |
|
770万円から999万9,999円まで |
年金収入×5%+145万5,000円 |
|
1,000万円以上 |
195万5,000円 |
また、雑所得は総合課税の対象となるため、一時所得など他の所得と合算した金額に基づいて税率が決まります。
退職金を年金形式で受け取るメリットは、定期的に受け取れるため、お金の管理がしやすいことです。ただし、課税対象となる期間が長くなるため、一時金でもらう場合より税金の合計が大きくなる可能性がある点がデメリットです。
併用する場合はシミュレーションが必須
勤務先によっては、退職金の一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取ることも可能です。この場合、一時金は退職所得、年金は雑所得として扱われます。
一時金だけでは控除しきれないほど多い退職金は、一部を年金で受け取ることで控除が増える場合があります。ただし、実際にどれだけ控除できるかは、複雑な計算をしないとわかりません。一時金と年金を併用するなら、税理士に相談してシミュレーションしておきましょう。
退職金と確定申告
退職金を受け取った後に確定申告が必要かを心配する人もいるかもしれません。ここでは、退職金に関連する確定申告の扱いについて解説しますので、参考にしてください。
一部の例外を除いて不要
結論として、一部の例外を除けば退職金を受け取っても確定申告は不要です。これは、通常の給与や賞与と同じように、退職金からも所得税や住民税が源泉徴収されるためです。
退職金を受け取る前に、会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出する必要があります。この書類は退職所得控除を受けるためのもので、退職金の支給日や勤続期間などを記入して提出します。会社の担当部署から渡されたら期限までに記入して提出し、指示に従いましょう。
確定申告が必要になるケースもある
一方、以下のいずれかに当てはまる場合は確定申告が必要になるため、注意してください。
- 退職所得の受給に関する申告書が未提出
- 退職に伴って年末調整をしていない
- 所得控除を使いたい
- 雑所得以外に20万円超所得がある
- 公的年金等で収入が年間400万円超ある
退職所得の受給に関する申告書が未提出
退職金を受け取る前に、会社へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出しましょう。もし提出せずに退職すると、退職所得控除が受けられず、一律20.42%の税率で所得税と復興特別所得税が引かれてしまいます。
ただし、この場合は確定申告をすれば、納め過ぎた税金が戻ってきます。忘れずに手続きしましょう。
退職に伴って年末調整をしていない
退職日が年度の途中で年末調整をしていない場合も、確定申告をしたほうがよいです。毎月の給与から引かれる税金はあくまで概算で、本来より多くなっていることも珍しくありません。基本的には年末調整で差額が戻りますが、していない場合は確定申告が必要です。
特に、退職した年の給与が前年より少ない場合は税金を多く引かれている可能性が高いため、確定申告で差額が戻ることがあります。
所得控除を使いたい
一定の所得控除を受けたい場合は、確定申告が必要になります。
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所得控除の名称 |
どのような場合に使えるか |
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社会保険料控除 |
健康保険の任意継続保険料や、国民健康保険料・介護保険料を支払った場合 |
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生命保険料控除 |
民間の生命保険、共済の保険料を払った場合 |
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地震保険料控除 |
地震保険(共済含む)の保険料を支払った場合 |
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医療費控除 |
自分や同居の家族が医療機関にかかった場合 |
どの所得控除が使えるかは人によって違うため、事前に税務署や税理士に確認しましょう。
雑所得以外に20万円超所得がある
退職金を年金で受け取る場合は、「公的年金等に係る雑所得」に分類されます。そのため、退職金を年金で受け取っている人が、さらに給与や配当、生命保険の解約返戻金(一時所得)、原稿料や個人年金(雑所得)などを受け取っている場合は注意してください。
これらの「公的年金等に係る雑所得」以外の所得が年間20万円を超えると、確定申告が必要になります。
公的年金等で収入が年間400万円超ある
公的年金等の収入が年間400万円を超えると、確定申告が必要です。「公的年金等」には次のものが含まれるため、合計を計算して確定申告が必要か確認してください。
- 国民年金
- 厚生年金
- 年金形式での受取退職金
- 確定給付企業年金
- 確定拠出年金
退職金を受け取っても翌年の税金は増えない
大前提として、退職金を受け取ったとしてもそのことだけが理由で翌年の税金は増えません。そもそも、退職金にかかる所得税や住民税は、支給に際し源泉徴収(天引き)されるためです。
なぜ住民税が高いと感じるのか
退職金を受け取った翌年の住民税が高いと感じる人もいますが、これは「退職した年の給与や賞与にかかる住民税の課税と支払いのタイミング」が関係しています。
退職した年の給与や賞与にかかる住民税はその年の給与所得に基づいて計算され、翌年に課税される仕組みです。在職中は住民税が給与から天引き(特別徴収)されますが、退職後は自分で年1回または4回に分けて支払う(普通徴収)必要があります。そのため、1回あたりの支払額が大きくなり、住民税が高いと感じる人がいるのです。
まとめ
退職金にも、給与や賞与と同じように所得税や住民税がかかります。基本的には勤務先が源泉徴収するので、自分で確定申告する必要はありません。ただし、所得控除を使うなどの事情がある場合は、忘れずに確定申告してください。
現行制度では、勤続年数が長いほど退職所得控除の額が増え、その分税金が少なくなる仕組みです。一方で、転職が増えている社会状況により、退職所得控除の恩恵を十分に受けられない場合もあります。
退職金制度や税制は今後見直しが行われる可能性もありますが、具体的な変更内容や時期は現時点では明らかになっていません。将来の制度変更に備え、退職金の受け取り方や運用について計画的に考えておくことが大切です。
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